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2019/05/21

若い選手の場合の 「闘争と逃走」と平常心

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体操全日本選手権を2連覇し、先日のNHK杯でも優勝した谷川翔選手(20歳)は、優勝後のインタビューで涙を流しながら「本当に今日一日が怖くて怖くて仕方がなかった」と語っていました。

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翌日のインタビューでも「今までやってきたことを自信を持ってやろう」と、失敗がよぎりそうな気持ちを追い出し、過酷な練習で培った自信で心の中を一杯に満たそうとした気持ちを丁寧に説明していました。

 

体操競技界では重要な試合における筋肉に対するアドレナリンの影響を「試合筋」と呼んで、その出力の上昇分を織り込んだ演技をするそうです。

アドレナリン分泌などの現象は避けられないものとして対策していくというスタンスですね。

 

重要な試合などでの極度の緊張や高いストレスがかかる場面では「闘争逃走反応」(fight-or-flight response)に近い状態になります。

 

緊張や不安、恐怖などのストレッサーの刺激が副腎からのストレスホルモンの分泌を促します。主にアドレナリンとコルチゾールが放出され、交感神経が活発になるとこで、闘うかもしくは逃げるための準備がなされます。

 

心拍数上昇、血圧上昇、呼吸数上昇、気管拡張、筋肉向けの血管拡張、血糖値が上昇し、筋肉に優先的に血やエネルギーが供給される仕組みが整います。筋肉が素早く強く動けるような臨戦態勢になります。

その一方で、闘争逃走に関わらない臓器の働きは一旦機能停止状態になり、視野狭窄や聴覚が鈍るなどの現象が起こります。

 

競技によっては、闘争することに優位な条件と上手く噛み合えば「火事場の馬鹿力」的な目の覚めるようなパフォーマンスにつながったりします。

 

特に年齢の若い選手に、このような状況の中にあっても、自分史上最高のベストパフォーマンスの結果に繋げている事例は決して珍しくありません。

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16歳の女子フィギュアスケートの紀平梨花選手は、現在世界で2人しかプログラム入れていないというハイリスクな技に挑みながらも国際大会6連勝という衝撃のシニアデビューを果たしました。

日本の女子プロゴルフツアーでも、今シーズン20歳の優勝選手が早くも3人誕生しています。

思えば、石川遼選手が15歳で優勝してからの快進撃も素晴らしかったですね。

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20歳前後で高いプレッシャーのもとでマイベストパフォーマンスを発揮している様子は、「若いのにストレス反応に打ち勝つ強いメンタルを持つ特別な人」と思われますが、実はそういうことだけではないということが近頃の研究によって解明されつつあります。

 

このような年齢が若い時期の「ワクワク感」と「ドキドキ感」が入り混じった状況に追い込まれながらも良いパフォーマンスに繋げていくにはある一定の条件が要ると考えられています。



仮にもしすでに早熟に完成された強靭なメンタルを若いうちに手に入れているとすれば、さらに経験と修練を重ねてきている石川遼選手も「今」これほど伸び悩み、苦しむことはなかったと考えられます。

 

では、経験や年齢を重ねることによってどのような条件の変化が起こり、どう対処していけば良いのでしょうか?

(※この変化が早めに訪れる個人差もありますが)

 

最近の認知科学、神経科学の分野では、脳のワーキングメモリーの使われ方の変化が関係していると考えられています。

 

これについてはまた後日に。






2019/05/14

アームロック式パッティングにまつわる物理と脳と外的集中

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アームロック式のパッティングスタイルはPGAツアーの多くの選手が採用し始め、流行しつつあると言われています。

規制によって禁止されたボディへのアンカリングの代わりに左腕にアンカリングさせたもので体と道具のコネクションというよりももはや左前腕の拡張がパターになっているというイメージですね。

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この方法はパターイップス気味の選手が採用する事が多いですが、実戦で使うかどうかは別にしても体と道具の関係性の微妙なニュアンスや、不確実性を減らす事の効果を実感できる練習ドリルとしても一定の効果がありそうです。

 

ここで言う不確実性とは主にゴルフにおける物理現象の不確実性を指しています。

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ゴルフにまつわる物理に関しては意外と安易に語られてしまうことが多いですが、、よく登場する「二重振り子」の動きの分析をひとつをとっても、実は考慮しなければならない変数が膨大でかなり厄介な不規則さを持っていて「カオスの見本」となっていることはあまり知られていません。

(※ゴルフスイングを物理的にとらえようとするときにおさえておかなければならない「変数」と、二重振り子、三重振り子を管理するためのアイディアついてはまた後日に)

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パターはリストを使わない事がセオリーですが、完全に固定できているわけではないので実際には慣性によって生まれる二重振り子的な動きの誤差は避けられず、脳がその微妙な動きを経験をもとに推定して無意識にアジャストしているのが実情です。

 

体の拡張子として道具を使う場合、脳は体とその道具の先端までを「体が拡張」したものとして動きを制御しようとします。

このことからも、体の動きばかりに意識が向く「内的集中」がゴルフにおいてはあまり意味をなさない事がわかります。

もし、道具に対して無意識にしているアジャストの動きを体の動きとして内的集中的にヘタに意識してしまうと、脳の危機管理システムがその動きを「想定外の動きの兆候」として拾ってしまった時に全体の動きそのものに対してストップをかける事があります。

これはイップスの入り口になる原因になるものなので絶対に避けなければなりません。

なるべく不確実性を減らして、道具の先端まで神経が行き渡るような感じで動作をイメージし、その挙動を脳が推定できるようにして、それを外的集中によってモニタリングする状態を構築することでパフォーマンスの向上に結びついていきます。

 

不確実性要素をできるだけ排除するという意味においてもアームロック式によってリストの支点を減らすことは脳へのフィードバックをシンプルにする意味でも良い効果が見込めます。

(ただ、視界の中のシャフトの位置関係の違和感など別の問題ががクリアになる必要がありますが)

 

脳が動きを推定できるように不確実性をできるだけ減らしながら、拡張子の先端まで外的集中でイメージを高めていけるようにするとイップスを避けられるという事が言えますね。





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