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2019/08/06
渋野日向子さんのワーキングメモリー
渋野日向子さんがメジャートーナメントで優勝しましたね。
彼女はまだJLPGAツアーでもルーキー、しかも驚きの海外初試合という、全てが快挙で、プレーぶりや振る舞いから何もかもがイケてて素晴らしかったですね。
渋野さんの結果はまさに、海外試合経験やメジャートーナメントでの優勝争いの経験を積み重ねる重要性までもが、大事なのはそこではないのかもと感じさせるほどのものでした。
以前の記事、
『若い選手の場合の「闘争と逃走」と平常心』と、
週刊ゴルフダイジェスト7月2日号にも触れましたが、
若くして、それも大舞台で自分史上最高のベストパフォーマンスを出せる選手には共通する特徴があります。
脳におけるワーキングメモリーの使われ方です。
机の上を短期記憶、引き出しや本棚というようなキャビネット的なものを長期記憶、というふうに脳のはたらきをとらえると、ワーキングメモリーは机の上のイメージです。
机の上は今やるべき事、現在進行形の作業をするための作業台といったところです。
ここに何が置かれているのか、
どのくらいの広さがあるのか、
このような要素によってパフォーマンスの質が変わると考えられています。
また、作業台の上にあるものは、
時間と空間 の違いも存在します。
若い選手であればあるほどそこに、遠い過去ものや、未知である未来のことがあまり置かれる事はなく、「今」に関することと、「近い過去」「近い未来」に関することで占められています。
また、日頃の生活で煩わされている諸々の生活のタスクもそこにはまだ少ない状態です。
現在過去未来という時間軸、現実と理想(仮想)の「距離感」が比較的近い事も特徴です。
一方、ある程度年齢を重ねるほど、マルチタスク型になって、ストレスフルになっていき、「今、必要でないタスク」「常に置かれたままになっているタスク」が雑然と置き去りになりがちになり次第に増えていって(バックグラウンドで多くのプログラムが動いているかのように)慢性的なビジー状態になってしまいます。
そのために脳の処理速度は低下し、パフォーマンスもしだいに低下してしまいます。
(現実と理想(仮想)の距離感もどうしても広がっていってしまいます)
そうなってしまうと、目的のタスクをその都度抽出して「集中する」必要性が生じて「そのためのテクニック」が必要になり、例えばルーティーンの手順が増えていったりということになったりします。
それが端的にあらわれるのが「スロープレー」です。
ワーキングメモリーがシングルタスク、シングルイシューに近く絞られていれば集中するというより粛々と実行するというモードになり、即断即決しやすくなります。いわゆる「フロー」状態に近づきます。
イップスに関連するところは、
脳が本来の目的とはズレたところでビジー状態になり明らかに動作に回す処理能力が低下している時に起こるという点です。
(武道ではそれを『居つく」と表現します)
そこで大概「メンタル」の話になってくるわけですが、いわゆるメンタルが強い=自己コントロール能力か高いという要素が必ずしも全てではなく、
ここでもワーキングメモリーの使われ方にポイントがあります。
それは、ワーキングメモリーの作業スペース以外に余っている「空きスペース」をどのように使われているかという点です。
その空きスペースがクリアーな状態の「空」になっている状態が本当の自己コントロール能力が高い人のイメージです。いわゆる、メンタルのネガティブな波がまったく入り込まないイメージです。
ところが、そのような明鏡止水のメンタルを実現出来る人はごく少数です。(というよりもほとんどいないかも知れません)
実際は、なんらかの不純物がこの「空きスペース」に紛れ込んできます。
それを俗に『雑念』といいます。
この『雑念』は必ずしも全てが悪いものではなく、問題ない雑念というのが存在します。
気をそらす材料として、その内容をコントロールする事がものすごく重要なのです。
特にゴルフは余剰時間が長い競技ですのでそこの重要度がさらに高まります。
渋野さんはそこの使い方が非常に優れているように感じました。(キャディをしていたコーチである青木さんの存在も大きいようでしたね)
トーナメントプレーヤーにアドバイスするときに私が必ず質問するのは「my favorite」(私の「お気に入り」)についてです。
何故かというとそれは、このような「空きスペース」を埋める良質の雑念として非常に助けになる可能性があるからです。
(※ここで言うワーキングメモリーの使い方や、どのような雑念が問題なくて、どのような雑念が望ましくないかについては実際の対面カウンセリングにて詳しくお伝えしています)
(渋野さんのmy favorite の一例(笑))
よく言われる「気持ちの切り替え」がうまく出来る状態とは、ワーキングメモリーの使われ方が無害なモノで満たされている場合にかなりうまく機能します。
あと、加えて大変重要なのは心理学的に『ソーシャル・サポート』と言う項目です。
これについては長くなりそうなのでまたの機会に…
2019/08/02
イップスに懊悩する藤浪晋太郎投手と、効果的「介入」のプライオリティ
藤浪晋太郎選手が昨日8月1日、299日ぶりとなる先発登板しました。
4回8四死球というイップスを克服したとは言えない内容となりましたが、降板のさいの甲子園の観衆の反応はこれまでと比べてあたたかい拍手と声援に包まれていたようです。
(※右打者に危険球が依然として多く、相手チームのファンや関係者としては複雑な心境である事は想像され、安全面においてはまだまだ課題は多い状態ですが)
従来はイップスは「気持ちの弱さ」のあらわれとされ、やがてそもそもの実力の無さとして認識され、見限られるというのが一般的でした。
「イップスも実力のうち」とはいっても、藤浪晋太郎選手の持つ潜在的な能力は疑いようがなく、投手としては大谷翔平選手に匹敵する才能を見限ってしまうにはあまりに惜しい選手である事は明らかです。実力がない事はあり得ないし、これまでの残酷で執拗な周囲の雑音に心を折られずにイップスと闘い続ける姿勢を見ても、単に「メンタルが弱い」「気持ちが弱い」で片付けてしまうのはまだ早計なような気がします。
ただ、こういう状況になればなるほどイップスを克服するための介入じたいは非常に難しくなります。
上からの物言いに対して頑なになったり、私利私欲でからんで来る人をその都度対応する煩雑さが伴う極めて難しい状況です。
このような場合に望ましい介入はどのようなものなのでしょうか。
前回の3人の介入者の例を使って考えてみたいと思います。