ニュース・ブログ

2019/09/24

緊張はパフォーマンスを下げるのか

476E0888-A758-43F8-8CE1-A7737E099D43.jpeg

 

 

15日に行われた、マラソングランドチャンピオンシップでの設楽悠太選手の戦い方は、プロらしい作戦でしたね。

オリンピックにはまずは出なければという他の選手の戦略は結果としは正しかったわけですが…

 

ところで、

ある意味マラソンよりも話題になってしまったのは、

コブクロの小渕さんの国家独唱でしたね。

 

0F43F810-4E31-49DB-8133-BA4B108BC226.jpeg

 

 

極度の緊張状態に陥り、大量のストレスホルモンの分泌から、一気に交感神経が高まってしまい横隔膜が下がらなくなってしまったのでしょうか。



一般的には、緊張は必ずしも悪いことではなくこれからやろうとしている事に対して起こる健全な生体反応です。



渋野日向子さんも大事な場面でのパターは手が震えると言っていますね。

交感神経が優位になれば、手は震えても当然です。

目の前の問題解決に向かって体がアイドリングしている健全な状態なので問題のある反応ではありません。

 

いわゆるジストニア的な現象に類する、書痙や本態性振戦などのように、目的の動作を著しく阻害するほどのものでなければ、それほど気にする必要はありません。

むしろ、緊張を抑えよう抑えようとすることの方がよくない結果につながります。

 

ところが、ほとんどの人が震えを抑えるにはどうしたら良いかを考えすぎてしまい、緊張を抑えよう抑えようとしてしまうわけですが、緊張することにより悪いイメージがどうしても払拭できない場合は、交感神経の高まりを適度なレベルまで下げる必要があります。

 

ここで、メンタルトレーニングなどで良く登場する、呼吸法やマインドフルネスが必要になる訳です。

顕在意識と潜在意識をまたがる呼吸という要素を使って無意識の動きと能動的な動きのバランスを取リます。

呼吸を整える事によって横隔膜が下がり身体の重心バランスが下がり、安定するというのも大きな副産物です。

 

プロレベルでのパフォーマンスを改善するには、このような自律神経をコントロールするトレーニングの経験が全く無い場合には、専門の指導のもとで8週間程度の訓練期間が必要です。

 

手っ取り早い方法を求める人にとっては、かなりここのハードルが高いようですが、トッププレーヤーを目指すならば遅かれ早かれ取り組む必要があるでしょう。

パターの時の「手が動かない」というのとはまた別次元の話です。





2019/08/06

渋野日向子さんのワーキングメモリー

81B634DC-358F-49FF-B156-07130370061C.jpeg

 

渋野日向子さんがメジャートーナメントで優勝しましたね。

彼女はまだJLPGAツアーでもルーキー、しかも驚きの海外初試合という、全てが快挙で、プレーぶりや振る舞いから何もかもがイケてて素晴らしかったですね。

 

渋野さんの結果はまさに、海外試合経験やメジャートーナメントでの優勝争いの経験を積み重ねる重要性までもが、大事なのはそこではないのかもと感じさせるほどのものでした。



以前の記事、

『若い選手の場合の「闘争と逃走」と平常心』と、

週刊ゴルフダイジェスト7月2日号にも触れましたが、

若くして、それも大舞台で自分史上最高のベストパフォーマンスを出せる選手には共通する特徴があります。

 

 

7B0EDCED-E250-43D2-A14A-B28D385D6C1F.jpeg7BCFE8C4-A074-4AA7-B40D-BE0432A2B4C6.jpeg

 

 

脳におけるワーキングメモリーの使われ方です。



机の上を短期記憶、引き出しや本棚というようなキャビネット的なものを長期記憶、というふうに脳のはたらきをとらえると、ワーキングメモリーは机の上のイメージです。

机の上は今やるべき事、現在進行形の作業をするための作業台といったところです。

 

ここに何が置かれているのか、

どのくらいの広さがあるのか、

DC275FE4-C891-44E7-94A6-D0E51C65787A.jpeg

このような要素によってパフォーマンスの質が変わると考えられています。

 

また、作業台の上にあるものは、

時間と空間 の違いも存在します。

 

若い選手であればあるほどそこに、遠い過去ものや、未知である未来のことがあまり置かれる事はなく、「今」に関することと、「近い過去」「近い未来」に関することで占められています。

また、日頃の生活で煩わされている諸々の生活のタスクもそこにはまだ少ない状態です。

現在過去未来という時間軸、現実と理想(仮想)の「距離感」が比較的近い事も特徴です。



一方、ある程度年齢を重ねるほど、マルチタスク型になって、ストレスフルになっていき、「今、必要でないタスク」「常に置かれたままになっているタスク」が雑然と置き去りになりがちになり次第に増えていって(バックグラウンドで多くのプログラムが動いているかのように)慢性的なビジー状態になってしまいます。

そのために脳の処理速度は低下し、パフォーマンスもしだいに低下してしまいます。

(現実と理想(仮想)の距離感もどうしても広がっていってしまいます)

 

そうなってしまうと、目的のタスクをその都度抽出して「集中する」必要性が生じて「そのためのテクニック」が必要になり、例えばルーティーンの手順が増えていったりということになったりします。

 

それが端的にあらわれるのが「スロープレー」です。



ワーキングメモリーがシングルタスク、シングルイシューに近く絞られていれば集中するというより粛々と実行するというモードになり、即断即決しやすくなります。いわゆる「フロー」状態に近づきます。



イップスに関連するところは、

脳が本来の目的とはズレたところでビジー状態になり明らかに動作に回す処理能力が低下している時に起こるという点です。

(武道ではそれを『居つく」と表現します)



そこで大概「メンタル」の話になってくるわけですが、いわゆるメンタルが強い=自己コントロール能力か高いという要素が必ずしも全てではなく、

ここでもワーキングメモリーの使われ方にポイントがあります。

それは、ワーキングメモリーの作業スペース以外に余っている「空きスペース」をどのように使われているかという点です。



その空きスペースがクリアーな状態の「空」になっている状態が本当の自己コントロール能力が高い人のイメージです。いわゆる、メンタルのネガティブな波がまったく入り込まないイメージです。

 

ところが、そのような明鏡止水のメンタルを実現出来る人はごく少数です。(というよりもほとんどいないかも知れません)

実際は、なんらかの不純物がこの「空きスペース」に紛れ込んできます。

それを俗に『雑念』といいます。

 

この『雑念』は必ずしも全てが悪いものではなく、問題ない雑念というのが存在します。

 

気をそらす材料として、その内容をコントロールする事がものすごく重要なのです。

特にゴルフは余剰時間が長い競技ですのでそこの重要度がさらに高まります。

渋野さんはそこの使い方が非常に優れているように感じました。(キャディをしていたコーチである青木さんの存在も大きいようでしたね)



トーナメントプレーヤーにアドバイスするときに私が必ず質問するのは「my favorite」(私の「お気に入り」)についてです。

 

何故かというとそれは、このような「空きスペース」を埋める良質の雑念として非常に助けになる可能性があるからです。

(※ここで言うワーキングメモリーの使い方や、どのような雑念が問題なくて、どのような雑念が望ましくないかについては実際の対面カウンセリングにて詳しくお伝えしています)

 

F88F3527-2A47-4966-BF40-CFA1EA879244.jpeg

(渋野さんのmy favorite の一例(笑))

 

 

 

よく言われる「気持ちの切り替え」がうまく出来る状態とは、ワーキングメモリーの使われ方が無害なモノで満たされている場合にかなりうまく機能します。

 

あと、加えて大変重要なのは心理学的に『ソーシャル・サポート』と言う項目です。

 

これについては長くなりそうなのでまたの機会に…





















2019/08/02

イップスに懊悩する藤浪晋太郎投手と、効果的「介入」のプライオリティ

06CB2D48-3CC8-4F9E-BE72-8D7AD18C1A01.jpeg

 

藤浪晋太郎選手が昨日8月1日、299日ぶりとなる先発登板しました。

4回8四死球というイップスを克服したとは言えない内容となりましたが、降板のさいの甲子園の観衆の反応はこれまでと比べてあたたかい拍手と声援に包まれていたようです。

(※右打者に危険球が依然として多く、相手チームのファンや関係者としては複雑な心境である事は想像され、安全面においてはまだまだ課題は多い状態ですが)

6F232AF5-05A9-4F10-8047-F966112F3990.jpeg

06CB2D48-3CC8-4F9E-BE72-8D7AD18C1A01.jpeg

従来はイップスは「気持ちの弱さ」のあらわれとされ、やがてそもそもの実力の無さとして認識され、見限られるというのが一般的でした。

 

「イップスも実力のうち」とはいっても、藤浪晋太郎選手の持つ潜在的な能力は疑いようがなく、投手としては大谷翔平選手に匹敵する才能を見限ってしまうにはあまりに惜しい選手である事は明らかです。実力がない事はあり得ないし、これまでの残酷で執拗な周囲の雑音に心を折られずにイップスと闘い続ける姿勢を見ても、単に「メンタルが弱い」「気持ちが弱い」で片付けてしまうのはまだ早計なような気がします。



ただ、こういう状況になればなるほどイップスを克服するための介入じたいは非常に難しくなります。

上からの物言いに対して頑なになったり、私利私欲でからんで来る人をその都度対応する煩雑さが伴う極めて難しい状況です。

 

このような場合に望ましい介入はどのようなものなのでしょうか。

前回の3人の介入者の例を使って考えてみたいと思います。

 

2019/07/29

イップスからの復活を離岸流からの生還にたとえてみた

C7BC24E0-89EB-4542-8B2F-95E4DC736980.jpeg

『岸へ向かって泳いでいるつもりなのに、

どんどん、どんどん岸からむしろ離れていく。

どうしたのだろう、岸まで泳ごう泳ごうとしているのに。

意に反してなぜか岸に近づくことができない。

焦って戻ろうといているのに戻れない。

泳ぎには自信がある、なぜだろう。

パニックになって闇雲に泳ぐ。

岸に向かって泳いでいるはずなのに、

岸がどんどん遠ざかっていく。

嫌な予感がする

怖くなってきた

必死にもがく

まずい、このままだと力尽きて溺れそうだ。

 

岸のほう、遠くから誰かが、

「岸へ向かうな!! 横へ泳げ!! 横へ泳ぐんだ!!」

とわめいている。

意味がわからない。

違う方角からも声が聞こえる。

ふと横を見ると20メートルほど横に親友がいた

「あわてるな。ここは浅瀬だ、足をおろしてみろ、足がつくはずだ」

足を下ろしてみる、確かにつま先だけだが足がつく、少し落ち着いてきた。

しかし流れが依然として強く、踏ん張ることができずにズルズルと沖のほうへ流されていく。

 

また別の声が聞こえた。

「横を見て!」

一緒に来ていた親友の彼女が、流されている僕に気づいて声をかけてきた。

10メートルほど横では、流されずに海水浴を楽しんでいる人たちが普通にいる、なぜだろう。

「リラックスして浮かんで少しそのまま流されたほうがいいよ。いったん落ち着いて体力を回復するんだよ。」

「そこの場所は20メートル位幅のある沖へ向かった流れの中だから、少し沖に行けばその流れは収まってくるよ!」

体力が限界に近かったので親友の彼女のいうことを聞くことにした。

浮かびながら沖へ流されていく、

ほどなくしてその流れは収まってきた。

放射状に流れの横にはじき出されたようだ。

少し落ち着き、体力の回復していた僕は、離岸流から向岸流に乗り換えられたらしく岸にたやすく泳ぎ着いた…』






海岸に起こるこの現象は「離岸流』といって海水浴場の海難死亡事故のかなりの割合を占めています。

F5A011BC-48CC-4FE8-A078-A42C6B138FAE.jpeg

 (画像は2012年に釜山で140人が離岸流に流されている様子)



イップスの泥沼からの生還を、この「離岸流」の流れからの生還にたとえてみました。

 

ここに「アドバイス」を送る(介入を試みる)3人の登場人物がいます。

 

Aさん①遠くでわめく、知らない人

Bさん②近くにいてアドバイスをくれる親友

Cさん③状況の説明をしてくれた親友の彼女



3人とも離岸流を知らない者にとって有益な対処法のアドバイスをしてくれています。

 

しかし、このアドバイスを役立てることができるかは別問題です。

 

解説をするのは野暮かなとも思うけれども次回以降でその説明をしてみます。




 

 

2019/05/21

若い選手の場合の 「闘争と逃走」と平常心

F1E3FE2A-1E28-4146-924C-874EC52A02E1.jpeg

 

体操全日本選手権を2連覇し、先日のNHK杯でも優勝した谷川翔選手(20歳)は、優勝後のインタビューで涙を流しながら「本当に今日一日が怖くて怖くて仕方がなかった」と語っていました。

8A1F0AEC-416D-4405-8F55-17B6B6F0B759.jpeg

翌日のインタビューでも「今までやってきたことを自信を持ってやろう」と、失敗がよぎりそうな気持ちを追い出し、過酷な練習で培った自信で心の中を一杯に満たそうとした気持ちを丁寧に説明していました。

 

体操競技界では重要な試合における筋肉に対するアドレナリンの影響を「試合筋」と呼んで、その出力の上昇分を織り込んだ演技をするそうです。

アドレナリン分泌などの現象は避けられないものとして対策していくというスタンスですね。

 

重要な試合などでの極度の緊張や高いストレスがかかる場面では「闘争逃走反応」(fight-or-flight response)に近い状態になります。

 

緊張や不安、恐怖などのストレッサーの刺激が副腎からのストレスホルモンの分泌を促します。主にアドレナリンとコルチゾールが放出され、交感神経が活発になるとこで、闘うかもしくは逃げるための準備がなされます。

 

心拍数上昇、血圧上昇、呼吸数上昇、気管拡張、筋肉向けの血管拡張、血糖値が上昇し、筋肉に優先的に血やエネルギーが供給される仕組みが整います。筋肉が素早く強く動けるような臨戦態勢になります。

その一方で、闘争逃走に関わらない臓器の働きは一旦機能停止状態になり、視野狭窄や聴覚が鈍るなどの現象が起こります。

 

競技によっては、闘争することに優位な条件と上手く噛み合えば「火事場の馬鹿力」的な目の覚めるようなパフォーマンスにつながったりします。

 

特に年齢の若い選手に、このような状況の中にあっても、自分史上最高のベストパフォーマンスの結果に繋げている事例は決して珍しくありません。

10A5A49F-36FC-4D37-9881-517A317C2C73.jpeg

16歳の女子フィギュアスケートの紀平梨花選手は、現在世界で2人しかプログラム入れていないというハイリスクな技に挑みながらも国際大会6連勝という衝撃のシニアデビューを果たしました。

日本の女子プロゴルフツアーでも、今シーズン20歳の優勝選手が早くも3人誕生しています。

思えば、石川遼選手が15歳で優勝してからの快進撃も素晴らしかったですね。

11A282A1-FFC2-4748-8488-A551406AA6BF.jpeg 

20歳前後で高いプレッシャーのもとでマイベストパフォーマンスを発揮している様子は、「若いのにストレス反応に打ち勝つ強いメンタルを持つ特別な人」と思われますが、実はそういうことだけではないということが近頃の研究によって解明されつつあります。

 

このような年齢が若い時期の「ワクワク感」と「ドキドキ感」が入り混じった状況に追い込まれながらも良いパフォーマンスに繋げていくにはある一定の条件が要ると考えられています。



仮にもしすでに早熟に完成された強靭なメンタルを若いうちに手に入れているとすれば、さらに経験と修練を重ねてきている石川遼選手も「今」これほど伸び悩み、苦しむことはなかったと考えられます。

 

では、経験や年齢を重ねることによってどのような条件の変化が起こり、どう対処していけば良いのでしょうか?

(※この変化が早めに訪れる個人差もありますが)

 

最近の認知科学、神経科学の分野では、脳のワーキングメモリーの使われ方の変化が関係していると考えられています。

 

これについてはまた後日に。