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2019/05/14
アームロック式パッティングにまつわる物理と脳と外的集中
アームロック式のパッティングスタイルはPGAツアーの多くの選手が採用し始め、流行しつつあると言われています。
規制によって禁止されたボディへのアンカリングの代わりに左腕にアンカリングさせたもので体と道具のコネクションというよりももはや左前腕の拡張がパターになっているというイメージですね。
この方法はパターイップス気味の選手が採用する事が多いですが、実戦で使うかどうかは別にしても体と道具の関係性の微妙なニュアンスや、不確実性を減らす事の効果を実感できる練習ドリルとしても一定の効果がありそうです。
ここで言う不確実性とは主にゴルフにおける物理現象の不確実性を指しています。
ゴルフにまつわる物理に関しては意外と安易に語られてしまうことが多いですが、、よく登場する「二重振り子」の動きの分析をひとつをとっても、実は考慮しなければならない変数が膨大でかなり厄介な不規則さを持っていて「カオスの見本」となっていることはあまり知られていません。
(※ゴルフスイングを物理的にとらえようとするときにおさえておかなければならない「変数」と、二重振り子、三重振り子を管理するためのアイディアついてはまた後日に)
パターはリストを使わない事がセオリーですが、完全に固定できているわけではないので実際には慣性によって生まれる二重振り子的な動きの誤差は避けられず、脳がその微妙な動きを経験をもとに推定して無意識にアジャストしているのが実情です。
体の拡張子として道具を使う場合、脳は体とその道具の先端までを「体が拡張」したものとして動きを制御しようとします。
このことからも、体の動きばかりに意識が向く「内的集中」がゴルフにおいてはあまり意味をなさない事がわかります。
もし、道具に対して無意識にしているアジャストの動きを体の動きとして内的集中的にヘタに意識してしまうと、脳の危機管理システムがその動きを「想定外の動きの兆候」として拾ってしまった時に全体の動きそのものに対してストップをかける事があります。
これはイップスの入り口になる原因になるものなので絶対に避けなければなりません。
なるべく不確実性を減らして、道具の先端まで神経が行き渡るような感じで動作をイメージし、その挙動を脳が推定できるようにして、それを外的集中によってモニタリングする状態を構築することでパフォーマンスの向上に結びついていきます。
不確実性要素をできるだけ排除するという意味においてもアームロック式によってリストの支点を減らすことは脳へのフィードバックをシンプルにする意味でも良い効果が見込めます。
(ただ、視界の中のシャフトの位置関係の違和感など別の問題ががクリアになる必要がありますが)
脳が動きを推定できるように不確実性をできるだけ減らしながら、拡張子の先端まで外的集中でイメージを高めていけるようにするとイップスを避けられるという事が言えますね。
2019/04/27
オープンスキルの壁
陸上三段跳びの元世界記録保持者(1981年~1996年まで保持ってすごいですよね)で米陸上殿堂入りしている、ウィリー・バンクス氏は、今では良く見かける助走前に観客に手拍子を求めるパフォーマンスの先駆者として知られています。
自分で飛び出すタイミングを作るのではなく観客の盛り上がりとともに共鳴する様子は当時とても斬新でした。
大舞台に強い選手らしい、競技の枠にとらわれないパフォーマンスでした。
陸上競技はクローズドスキルに分類されていますが、本番力のある選手になるにはその要素では不十分です。
試合に強い選手は種目にかかわらずオープンスキル的な要素に長けていると言えます。
運動スキルの分類において、「オープンスキル」とは、外的要因の変化する状況で使える技能とその選択と判断の要素を含むスキル。サッカー、バスケットボール、バレーボール、格闘技 などが該当するとされています。
それに対して「クローズドスキル」とは、外的要因の変化しない比較的予測可能で安定した状況において技術の要素が多く、状況判断を含まず自分のペースで行うことのできるスキルで、陸上競技、体操競技、水泳などでゴルブはこちらに分類されています。
この分類は、種目に言及されていますが、あらゆる競技は実際には技術も状況判断の迅速さもどちらが欠けても本番に強いパフォーマンスを発揮することはできません。
日本人はオープンスキルが苦手でクローズドスキル向きであるとは比較的昔から言われていました。
ひとつひとつ基礎を積み上げた練習によって技術を習得していくのが得意であるということは、遺伝子的にも明らかになっています。
日本人がセロトニンの再合成システムのはたらきが鈍いことと、ドーパミン受容体の感受性が強い事が原因とされ、セロトニンの不足と少しのドーパミンで満足してしまう傾向が、不安になりやすくチャレンジを恐れ、リスクを嫌うメンタリティに傾けているとみられています。
こういった遺伝子特性を「不安遺伝子を持つ」という言い方もされます。
この傾向の遺伝子特性によって直感や反射による意識決定よりも、より失敗の確率が低い方を選択する意思決定をしがちだという事がわかっています。
これにはしっかりとした準備、練習を怠らない傾向というメリットがある一方、危機回避を優先するあまりに判断の遅れや躊躇につながり決定機を逃す原因ともされています。
これを「ブレーキが強く、アクセルが弱い」という言い方をされることがあります。
対して欧米人はドーパミンの受容体の感受性が弱いために常に刺激を求め、直感的に意思決定することを好む傾向であるといわれています。
これは脳における情報処理の傾向の違いとも言える部分です。
「アクセルが強い」ともいえる意思決定傾向により、選択と判断の迅速さが必要なオープンスキルに優位性のある傾向だとも言えます。
これはコーチと選手の関係性にもあらわれていて、日本人の場合はとかくクローズドスキル型の選手、指導に偏りがちになりやすいことになり、指導者側は論理的で説得力のある細かい指示をしたがり、指導を受ける側は納得感があり確実性の高い指導を求めることになります。
つまり、どちらの側も内的集中をうながすほうに流れていくというきわめて残念な状態になってしまいます。
テニスのサーブ、野球投手の投球、ゴルフのスイングやパッティングといった種目の中の個々の要素にもクローズドスキルといわれている要素がありますが、「プルペンエース」という言葉があるように、練習で優れた技能を発揮できても試合になるとまるでダメということは珍しくありません。
「練習でできないことは試合ではできない」とはよく言われることですが、
「練習でできるからといって試合でできるとは限らない」ということも言えます。
これが厄介にも、「どんなに厳しい練習を積んだからといって試合で発揮できるとは限らない」という身も蓋もないという横顔ものぞかせています。
少なくともクローズドスキルの範疇にとどまっているうちは重要な試合で結果を出すには心もとない感じがします。
かといってオープンスキルにつながる指導は、暗示的学習などの外的集中を促す指導法ということになるわけですが、ともすれば周囲が理解しがたい指導に見える事があって評価が非常に難しいです。
どうすれば良いのでしょうか⁇
クローズドスキルとオープンスキル、
内定集中と外的集中、
明示的学習と暗示的学習、
モーターラーニングと……
だいぶ核心に近づいて来ましたね。
2019/04/17
暗示的学習 と 外的集中
『蝶のように舞い、蜂のように刺す 』
(Float like a butterfly, sting like a bee)
ボクシングの伝説的世界チャンピオン、モハメド・アリの、軽やかなフットワーク、鋭く的確なジャブを繰り出すボクシングスタイルとして世界中に知られているフレーズです。
試合前にトレーナーと一緒にこのフレーズを実際に叫んでいたと言われています。
アウトボクシングの指示確認でもあり、ヒットアンドアウェイ戦法のメタファーになっています。
これは、演出的なパフォーマンスであるとともに自己暗示でもあるとも考えられています。
このような優れたメタファーを使った指示は『暗示的学習』をうながすもので、その世界観の情景が客観的にイメージされやすいものほどメタ認知的になり『外的集中』に作用します。
メタファーを使わずにふつう通りの指示として明示的に表現をすると、
『近距離での打ち合いを避け、フットワークを駆使して、接近して打ってすぐ離れろ。そしてそれを繰り返せ』
というありふれた指示内容になり、これは文字通り『明示的学習』に当たるものとなります。
明示的学習による自分の身体がすべき事に対する細かい内向きの指示は、『内的集中』に作用します。
この、『外的集中』と『内的集中』の違いは近年のメタ分析によって、『外的集中』の方が圧倒的にパフォーマンスアップに効果的である事が証明されてしまいました。
(※この『外的集中』と『内的集中』の脳の情報処理のされ方の違いを利用して俯瞰投射法を行います)
一般的に『集中』といえば『内的集中』に該当するイメージがほとんどで、それがそれほどパフォーマンスアップに貢献していないという事実はわりとショッキングな事実だと思います。
一般的に、指導者がうながす集中とはほとんどのケースでこのような「内的集中」を指すものなので、指導者側に難しい課題を突きつけていると言えます。
このような課題は日本人のスキルラーニングにおける課題と同じ文脈で語れるといえます。
例えば、オープンスキルとクローズドスキルの習得のアプローチ方法の違いにもつながるものです。
オープンスキルとクローズドスキルについてはまた次回。
2019/04/16
タイガーウッズ マスターズ優勝と暗示的学習
2019年のマスターズトーナメントで、タイガー・ウッズが復活優勝しました。
これまでも信じられないようなパフォーマンスで世界を驚かせてきたウッズ選手ですが、もはや難しいのではと言われていた14年ぶりのマスターズ優勝、11年ぶりのメジャートーナメントの優勝をやってのけ、存在感の格の違い示して、久々に世界を驚かせました。
全盛期の活躍は言わずもがなですが、まるで漫画のようなプレーを連発して世界中のゴルフを知らない人々や子供たちに影響を与えてきました。
MLB、NBAやNFLのトップ選手のように子供に憧れられる初めてのプロゴルファーなのではないでしょうか。
その時のタイガーウッズ選手に憧れてゴルフを始めた子供たちが「ウッズ・チルドレン」となり、その世代のエリートが今のPGAツアーの中核選手となっています。(今回上位にいた多くの選手はそのようなウッズ・チルドレンにあたるわけで)
ウッズ・チルドレンたちは、タイガーウッズという圧倒的なカリスマの影響力のもと「模倣学習』によってウッズ型の優れたスイングをゴールデンエイジ特有の『即座習得」によって会得し、ゴルフ界のトレンドをアスリート型に一気に傾けました。
スーパースターの影響力は絶大ですね、
みんな「タイガーウッズのようにカッコよく振りたい」一心で取り組んできたわけです。
日本でもこれと少し似たような現象がみられました。
宮里藍さんが10年ほど前に世界的に活躍しはじめて、日本人でしかもそれほど体格の大きくない女の子でも大活躍出来るというロールモデルを示したことで、ちょうどその時期にゴールデンエイジを迎えていた女子のジュニアゴルファーの中心選手たちは今『黄金世代』として脚光を浴びています。
スーパースターの圧倒的な存在感と、その模倣学習がゴールデンエイジのタイミングと重なるという相乗効果の大きさは計り知れないものがあります。
動作学習における模倣学習は最高の「暗示的学習」であり、大きな効果を生みます。
暗示的学習についてはまた次回。
2019/03/23
動作学習を「系統発生的に個体発生する」ようなことは可能なのか
ある動物が発生する過程(たとえば受精卵から誕生まで〕は、その進化の道程をなぞるように行われるという説があります。
「ヘッケルの反復説」という生物学の仮説で、生物発生原則とも言われ、
『個体発生は系統発生を繰り返す』
という言葉の方が有名かも知れません。
何億年もかけてきた進化の歴史の過程を誕生前に経てしまうということになるのでしょうか。
体操競技では、30年前の金メダル級の技は現在小中学生が取り組む技になっていたりするそうです。
動作習得による技術向上を「進化」ととらえれば、先人の血の滲むような努力によって開発された技をあっさりとスピーディーにマスターし、さらに先に進むその様はまさに、
「系統発生は個体発生を繰り返す」
と言う言葉を思い起こさせます。
はたしてゴルフスイングは進化しているのでしようか。
30年前にジャンボ尾崎さんや、川岸良兼さんが糸巻きバラタカバーのボールで320ヤード先のフェアウェイど真ん中に飛ばしているのを見ているので少し複雑な気持ちです。
競技特性が違うんだということで以前の私も納得して思考停止していました。
『ゴルフは「自転車が乗れるようになれば一生乗れる」のとおなじようにはいかない』ということを昔から良く言われていました。
しかし、もはや様々な前提条件を整理すればモーターラーニングの観点から、現在ではそのような考え方がむしろ短絡的で辻褄が合わないところがどうしても出てきてしまっています。
さらにクラブやボールの進化は間違いなくゴルフをやさしくしているし、最近のPGAツアーでコンスタントな成績をあげている選手のスイングスタイルを見ると、ある一定の法則性を感じさせるところまでは来ているように思います。
つまり、今やゴルフスイングの標準化は可能なのではないかと思いはじめています。
ゴルフスイングが標準化されたものが確立しているのであれば、習得はもっと容易になるはずです。
ならば平準化を邪魔しているものは何なのか。
そこを曖昧に神秘的にする事で成り立っている世界があります。
それによって混乱することで困る(イップスなどで)人もたくさんいることもまた事実です。
ただ、運動生理学において、モーターラーニングよりもトランスファーラーニングの方が難航することが多く、
とりわけゴルフはこのトランスファーラーニングの項目だらけです。
まずは、前提条件を整理して、モーターラーニングを確立して標準化することこれから考えていきたいと思います。